「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会

研究開発プラットフォーム活動事例集2019

事例 3 ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュー
スペース研究開発プラットフォーム

プラットフォームの目的

低コストICT農業の社会実装を通じて、地域コミュニティをつなぎ、持続可能な地域コミュニティの復興を実現するためのアグリ・バリュースペース(地域全体の6次産業化/農商工連携に向けた共同・協働の場)創出の支援を行う。

具体的には、低コストICT農業を活用することで、ゆるやかな自給圏の再生、その上で低コスト・安心安全な地域フードシステムの構築を目指し、地域内で価値の連鎖(地域でお金が回る)を生み出し、地域内の食品加工業の高品質化や流通高度化を通して地域の新規雇用創出を図る。また、これら価値の連鎖から生まれる高価値農産品については輸出も視野に入れた最適な6次産業化プロセスをデザインし高収益化を狙う。

以上のようにICTで地域全体を統合することにより、自給力・自活力ある地域コミュニティ実現に向けた各種研究開発を行い、地域に真の豊かさを提供することを目的とする。

プラットフォームの取組

■プラットフォームを立ち上げたきっかけ

高専機構内で重点支援する研究ネットワークの一つである「全国KOSEN食・農・環境研究プロジェクト」が母体となっている。農業は工業と比べて多様性が高く、共通コアのようなツール類を標準化し、システム構築のノウハウを交換できるネットワークの利用価値は高いと考えプラットフォームとして設立。

■組織構成・役割分担

■共通コア(※)と高専ネットワーク

これまでの成果

■共通コア事業化事例 ~JA全農山形との連携事例(鶴岡高専)~
ICTを活用したスマート農業の推進に向け、鶴岡工業高等専門学校(鶴岡市)とJA全農山形は2019年3月に研究交流と地域貢献に関する協定を結んだ。同校が開発した低価格の環境センサーシステム「高専版ウェザーステーション」を使い、三川町のJA全農山形の農場で栽培管理サポートの実証試験を開始。
「知」の創発

プラットフォームメンバーとして加入したゴダイベスト社との共同開発(loT共通基盤ユニット部分)により、従来Zigbeeで接続していたセンサー子機との通信をプライベートLora(LPWA)に変更。ローカルセンサーネットワークの広域化を実現。並行してセンサー情報を集約するサーバアプリケーションの新コンセプトでの再開発とオープンソース化を実現した。今後の商用利用や教育利用に使いやすいパッケージとなった。

温度、湿度、気圧、風向、風速、雨量、日射量をセンサーで計測。人工知能(Al)を用いるなどして分析し、栽培管理に役立てる。

達成した経済的効果

第1世代高専版ウェザーステーションに比べて製造原価およそ30%削減。

大手メーカーの同様の装置が100万円以上するのに対し、市販品を部品に活用しているため、教育用キットとして10万円程度の価格。

インタビュー

一般に工業系の学校と思われている高等専門学校だが、実は立地や人材面で農業との関連も深い。 最先端研究を行う大学や機関と連携してスマート農業の普及を目指す研究開発プラットフォームには、持続可能な地域コミュニティの復興という願いがある。

「工業」高専がなぜ「農業」に向き合うのか

「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース」研究開発プラットフォーム(以下、「プラットフォーム」)は、工業系の高等専門学校(以下、「高専」)が主体となった異色のプラットフォームだ。国立の高専は現在、全国の51校に学生数約50,000人、教職員数約4,000人を数え、その多くは高齢化や工場移転で人口減少が急速に進む都道府県の「第二地方都市」に立地している。実家が農家という学生も多いことから、地域の持続可能性を保てる農業への取り組みが期待されており、プラットフォームの実現目標として「低コストスマート農業の普及」と「地域IoT人財の育成」を挙げている。

ミッションの中核が、「高専版ウェザーステーション」をはじめとするツール群「共通コア」だ。全国の高専が開発に取り組むスマート農業の、汎用的な部分を共通化できれば開発時間とコストを抑えられる。「基幹部品の集中購買や修復ノウハウを共有することで、スマート農業のコスト削減と研究効率の向上が実現でき、高専の本質である応用研究に注力できるようになります。また、日本各地に導入し幅広くデータを収集することで、気候差の影響など、地域を超えた情報の共有が実現します」と、プラットフォームプロデューサーの渡辺考一氏は語る。

プラットフォームの運営体制

プラットフォームには、共通コア運営にかかわる3部会が設置されている。共通コア開発の中心となる「開発部会」は阿南高専、各種応用事例を研究する「活用部会」は仙台高専、loT人財の育成を行う「教育部会」は熊本高専がリーダーとなって、各高専の事例の共有と研究上の課題や予算獲得などの情報交換を行っている。

共通コアに関連する知財は、高専機構本部でオープンリソース、クローズリソース、サービスリソースの3形態に分類し、適切な保護と同時に類似機能の重複開発などを低減する仕組みとなっている(下図「オープン&クローズ&サービス」参照)。

プラットフォームの進捗管理も、基本的には各高専が担い、プロデューサーが動くのは、共通コアのトラブルや開発上の課題といった全体に影響する緊急案件や、人員不足で体制強化が必要な場合の調整など高専ネットワークの全体最適を図る活動に注力している。「プロデューサーを3年やりましたが、すべてに関わるのは難しい。今年、3部会を整備したことで、公募や大学との連携に割く時間を増やせました。もちろん、必要に応じてWeb会議で解決策や対応を協議していますし、全体会合も年に一度の総会のほか、農業情報学会などの機会を利用して開催し、学会やイベント参加者がオプションで会合を持つこともあります」と渡辺氏は語る。

最先端技術と現場の架け橋を目指す

プラットフォーム外の連携にも積極的だ。「高専が行う研究は実用的な分野が多く、大学のような最先端を追求する研究は高専の人員体制的に難しいです。その代わり、先端技術の研究や開発を進める大学・研究機関・企業の人たちと協力関係を作ることで、先進技術の地域社会への展開を高専が担うことが可能になります。」と渡辺氏。最新のシステムであっても現地で使いこなせる人財がいなければ中長期的な利活用は難しい。せっかく高価なシステムを導入しても、対応できる人財不足で使いこなせていないケースが多い。地域に最新技術を展開していく担い手の育成を進めていきたい。「高専は、地元の要望に素直に応えていく地道な活動が持ち味です。たとえば、商用電源が使えない山奥でスマート農業を行いたいという場合であっても、独自にソーラーパネルと蓄電池を組み合わせた最適な独立電源を設計し電源の確保から考え抜いたシステムを提案できます。現場のニーズに応えて培った実践知を活かした効果的な導入支援が可能です。今後はデータ利用が重要なテーマとなり農業系Alや農業データに詳しい人材の育成にも高専のリソースが活用できます」と渡辺氏は連携を呼びかける。

本プラットフォームは、高専機構内の研究ネットワークでも有数の規模を持つ「全国KOSEN食・農・環境研究プロジェクト」を母体としている。農業は工業と比べて多様性が高く、共通コアのようなツール類を標準化し、システム構築のノウハウを交換できるネットワークの利用価値は高い。「当プラットフォームは産学官連携のオープンイノベーションです。農業試験場や大学、高校と連携していくスキームということを理解していただき、農業関係者への知名度を高めていきたいですね」と渡辺氏は語る。

情報発信の強化で現場の要望をキャッチアップ

共通コアは、概ね1年半のスケジュールでバージョンアップしている。現在、Ver.2のフィールドテストを実施中で、そこからのフィードバックを含め、2020年に開発予定のVer.3に向けて関係者から提案や課題を集めている段階だ。研究推進体制の整備を受けて、新たに開設したホームページやブログを通じた情報発信も強化している。これは、今後予定している「共通コアキット」の一般向け販売も見据えたものだ。

プラットフォームの今後に向けて渡辺氏は、「情報発信」と「緩やかな関係性の維持」をキーワードに挙げた。「最初は興味を持たれなくても、一年後に新たなニーズが生まれて連絡して来られる方が多いですし、補助金や予算のタイミングもあります。プロデューサーとしては、潜在的なお客様が、今、何に興味を持っているのか常にアンテナを張り、適切な情報発信とリレーション・マネージメントを保つことを心がけています。特に重要なのは、言ってくるのを待つのではなく、聞き出すことです」と渡辺氏。最後に、「単に共通コアというツールを売るのではなく、同じ地域の仲間として一緒にスマート農業を広めていきたい」と語った。