「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会

研究開発プラットフォーム活動事例集2018

事例 2 Society5.0における
ファームコンプレックス研究開発プラットフォーム

プラットフォームの活動概要

施設型第一次産業の技術革新と、様々なデータベースを統合活用する高度な情報の連携を進めることにより、①国内の第一次産業の生産効率化、②バリューチェーンの整備・強化による海外収益の拡大、③技術ライセンスやコンサルティング等の新ビジネスの創出(第6次産業化)などを推進する。

特色

日本の安全・安心で美味しい食材や加工食品の生産性向上と、国際競争力の強化を推進するため、ICTを高度に融合した施設型第一次産業(ITファーム)を推進する。食材の対象を野菜から魚介類や畜産等に拡大し、アジア等への市場拡大、新ビジネス創出により10兆円規模の価値創造を目指す。
ICTプラットフォームやデーターベースを活用する情報流通ネットワークの構築と、海外販売においてはJAS認証等によりその意味的価値を増大させ、第一次産業担い手の所得向上に繋げる。また、各地域にITファームの社会実装をおこない魅力あるコミュニティーを形成すると共に、日本各地の担い手を連携したファームコンプレックスにより、世界市場をターゲットとする生産物と情報発信の基地とする。
平成30年度は産業競争力懇談会(COCN)との連携活動となる、「ITファーム懇談会」を開催し、JAS認証に向けた協議会設立を目指す。また、ITファームの社会実装に付いて政策提言をおこなう。
沿革としては、平成28年6月に「アジアモンスーンモデル植物工場システム研究開発プラットフォーム」として設立。設立当初から前述のCOCNとの連携活動として推進する中、平成29年7月には、現在のプラットフォーム名に名称を変更し、ITグリーンハウス、IT養殖、IT畜産等、ICTを活用した施設型第一次産業の取組へと拡大。これらにより、会員は設立時の6機関から、平成31年1月現在では67機関と増加した。

これまでの成果

平成28年度 「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業
アジアモンスーンPFSコンソーシアム 平成28年~32年
【参画機関】
三菱ケミカル(代表機関) 、パナソニック、富士フイルム、シャープ、シチズン電子、住友電気工業、タキイ種苗、堀場製作所、 農研機構、JIRCAS 、名古屋大学、大阪大学、東京大学、北海道大学
【研究概要】
素材技術、温度制御技術、LED・センサ技術、栽培技術、ICT・AI技術の融合により、高温多湿地域においても高収益化が可能なITグリーンハウスを開発し、担い手の収益向上、輸入品からの国内市場奪還、海外市場での競争力強化につなげる。

平成29年度 「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業
大規模沖合養殖システム実用化コンソーシアム 平成29年~32年
【参画機関】
新日鉄住金エンジニアリング(代表機関)、日本水産、弓ヶ浜水産、黒瀬水産、パナソニック、 東京大学、公立鳥取環境大学、米子工業高等専門学校、鳥取県栽培漁業センター、宮崎県水産試験場、宮崎県工業技術センター、宮崎大学
【研究概要】
日本の養殖業の再活性化をおこなうため、プラント設計技術、養殖技術、ICT技術を融合し、沖合域で大規模かつ省労力での生産を可能にする「大規模沖合養殖システム」と、養殖手法の標準化・効率化を進める「最適生産管理システム」の基盤技術を開発する。

インタビュー

プロデューサー:吉田 重信「世界で価値を生む第一次産業を目指し、分野を超えて産学官が協働」

生産物の安全・安心を担保し、「日本ブランド」として世界に展開するためには、産学官の枠組みを超えた技術的連携と、分野横断的な議論が必要だ。多種多様なメンバーが集まる研究開発プラットフォームでは、相乗効果により、ビジネスモデルの広がりや新たな技術的アイデアが生まれている。

立ち上げ時からメンバーの意思・目的を共通化

「Society5.0におけるファームコンプレックス」研究開発プラットフォーム(以下、「プラットフォーム」)ができたのは、産業競争力懇談会(COCN)での活動がきっかけだった。農業関連事業におけるオープンイノベーションの可能性をテーマに、事業拡大の方向性やビジネスモデルについて議論を重ね、その実現に向けた施策を提案してきた。
「高効率・低コストで、安全・安心な農作物の生産を可能にする植物工場は、さまざまな技術を組み合わせなければ実現できません。1社ではどうしてもなし得ない事業のビジネスモデルをどう描くかについて、繰り返し議論してきました」と語るのは、プラットフォームプロデューサーの吉田重信氏だ。当時、COCNで中心となって提案してきたメンバーは20名ほどだったが、最終的に残ったのは意志を同じくする6名だった。この6名で、前身となる「アジアモンスーンモデル植物工場システム研究開発プラットフォーム」を立ち上げた。「プラットフォームを立ち上げるにあたっては、まず、活動のゴールを共通化することが重要です。同じ目的と意志を持った人が集まらなければ、活動を継続・拡大させることはできないでしょう」と、吉田氏は強調する。
また、プラットフォームでの活動が、各企業における将来的なビジネスにつながることも重要だ。吉田氏は、「業種が異なっていても、相乗効果による各々の事業拡大が期待できれば、協業は可能です」と主張する。そのためには、協業の受け皿となる「大きな目標」が必要になる。「我々のプラットフォームでは、施設型第一次産業における海外への市場拡大と新ビジネスの創出により、10兆円規模の価値創造を目指しています。このように目標が大きければ、競合する企業が多くても、またそれぞれの分野や業種が異なっていても、事業のバッティングを避けることが可能です。『10兆円という規模があれば、自社でも獲得できる市場があるのではないか』という関心を持つところから、活動を共にしてもらえればと思っています」と、吉田氏は考えを述べた。

相乗効果で課題解決の可能性が広がる

2017年7月にはプラットフォームとして取り組む事業領域を植物工場からさらに広げ、プラットフォームの名称も現在のものへ変更。海外輸出の拡大を目指すにあたり、農産物だけでは市場規模に限界があるのではないかという議論から、水産業におけるIT養殖も含めた幅広い領域でのビジネスモデルを構築している。「事業領域を広げることで、さまざまな課題が明確になります」と吉田氏は述べる。その一例が、養殖における餌の問題だ。大規模養殖を事業として拡大するためには、現在、ほとんどを輸入に頼っている餌を、国内で安く安定的に供給できるものに切り替えることが必要になる。そして、その解決策についても、多様な分野・業種のメンバーが集まるプラットフォームならではの議論が進んでいる。例えば、廃棄している魚の内臓や、畜産の廃棄物、酒の搾りかすなどを餌に活用することで、循環した持続可能な養殖が可能になるのではないか、といったアイデアも登場した。
さらに、各企業が持つ技術の組み合わせにより、新たな技術が誕生する可能性も見えている。「実際に議論されているところでは、植物工場で葉物野菜を生産するシステムを、クロレラやノリ、ヒジキといった藻類の生産にも使えるのではないか、といったものがあります」と、吉田氏は紹介した。
プラットフォームのメンバーは、2019年1月現在で67機関。メンバーの拡大にあたっては、各メンバーの持つネットワークのほか、『「知」の集積と活用の場』におけるポスターセッション、セミナーなどの交流の機会も活用している。プラットフォームへの新規加入にあたっては、独自に定めた規約を遵守してもらうことが条件だ。「特に知的財産の考え方については、事前に理解してもらうようにしています。我々のプラットフォームでは、知的財産における不実施補償※1を行っていません。その代わり、事業に提供された特許等の知的財産ごとに貢献度に応じたポイントを付与し、ポイント数に応じて利益を分配する仕組みを採用しています。民間企業の参画を促進できるとともに、事業を行わない大学や公的研究機関も相応の見返りを得られる仕組みです」と、吉田氏は語る。

事業戦略の議論に特化した懇談会も設立

プラットフォームの運営としては、全体としてビジネスモデルの検討を行い、そのビジネスモデルに即した技術について、都度研究コンソーシアムを立ち上げている形だ。「67機関という大規模なプラットフォームなので、役割分担をしながら運営しています」と吉田氏は言う。例えば、ITファームの推進に関しては農研機構野菜花き研究部門やパナソニック、IT養殖関係は新日鉄住金エンジニアリング、ICT分野の連携では名古屋大学が中心的な役割を担っている。同時に、プラットフォーム内で分断が起こらないよう、プラットフォーム全体としての会議を2~3カ月に1回程度開催し、情報共有を図っている。
さらに、事業戦略を議論するための組織として、プラットフォーム内に「ITファーム懇談会」を設立。2カ月に1回程度、定期的にディスカッションを行っている。現在は、日本ブランドの安全・安心を担保する仕組み作りとして、ITファームの生産方式におけるJAS認証の取得に向けて活動している。「JAS認証を取得できたら、懇談会を協議会として法人化し、事業化のための独立した機関として活動できるようにしていく予定です」と吉田氏は語った。
また、海外での社会実装に向け、内閣府で推進しているPRISM(官民研究開発投資拡大プログラム)やSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)といった他のナショナルプロジェクトなどに参画する一方、沖縄県などの自治体と連携して、国内での社会実装を加速化させている。

プラットフォームの枠を超えた協創

活動は吉田氏のプラットフォーム単独で行っているものだけではない。
『「知」の集積と活用の場』における他のプラットフォームと協働し、「輸出拡大に向けた戦略構築のための市場調査」体制を構築した。海外での現地調査を行うほか、有識者による講演会を開催して、海外市場の把握に努めている。これらの市場調査も、研究者が主体となって取り組んでいるのが特徴だ。「研究者自身が、海外市場を肌で感じ、海外でのビジネスをどうつかむかのビジョンを描いて、研究開発に反映させることが重要です」と吉田氏は述べる。
プラットフォーム間の連携が実現したのも、『「知」の集積と活用の場』による交流の場だった。吉田氏は、「特に大学関係の方と多くのつながりを持てたことが有意義でした」また、「個社で大学の窓口にアプローチするよりもスムーズに、関連した研究を行う研究者自身とマッチングができました」と言う。
最近では、活発なプラットフォームに参加するメンバーが、別の活発なプラットフォームにも重複して参加しているケースも多い。最後に吉田氏は、「いいプラットフォームには、いいメンバーが集まってきます。今後も、そうした思いの熱い方とつながっていきたいと思っていますし、プラットフォーム間での連携も模索できるような活動的なプラットフォームが増えてくることを願います」と語った。

※1 不実施補償…大学や公的研究機関と企業が共同研究を行う際に、通常自ら事業化を図ることが困難な大学等が、研究に係る共有知財を第三者へ譲渡・ライセンス許諾をしない代償として、企業が大学等に実施料相当額を支払う仕組み。