「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会

研究開発プラットフォーム活動事例集2018

事例 1 健康長寿社会の実現に向けた
セルフ・フードプランニングプラットフォーム

プラットフォームの目的

健康状態から軽度不調に移行するタイミングをとらえ、軽度不調から健康状態へ移行させるための新たな健康機能食品を実現するため、簡易な健康評価装置をはじめ、健康の評価から食材や食品の供給システムまで、幅広く技術やシステムを開発する。また、そのシステムを活用し、健康な日本人を対象とし、あらゆる世代の健康な国民の健康維持増進に寄与する健康機能農産物や食品を開発を行い、それらの健康維持増進効果を学校、企業、官公庁などで実証して、健康長寿を実現する食生活プロトコールを提案する。本プラットフォームでは、健康・食・ライフスタイルイノベーションの創出を目的とする。

特色

総合的に関係機関へアプローチを継続中

これまでの成果

平成28年度補正予算 「革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)」
ナス高機能化コンソーシアム 平成28年~31年
「新規機能性成分によるナス高付加価値化のための機能性表示食品開発」
【参画機関】
代表機関:国立大学法人信州大学
参画機関数:7機関
【研究概要】
ナス特有の新規機能性成分・コリンエステルの含量と食味を指標とした好適品種の選定、ナスのコリンエステル蓄積メカニズムに基づいた品種に適した栽培法、規格適合果実の非破壊選別法、食品加工法と食品機能評価法を開発し、これらを組み合わせた、ナスを原料とした生鮮機能性表示食品開発のための技術体系を確立する。

農産物の機能性表示食品商品化支援コンソーシアム 平成29年~31年
「機能性成分分析の高度迅速化による農産物における機能性表示食品商品化の加速」
【参画機関】
代表機関:宮崎県総合農業試験場
参画機関数:9機関
【研究概要】
宮崎県総合農業試験場が開発する質量分析計による機能性成分迅速分析法と従来法とでクロスチェックを行い、妥当性評価を行うとともに、異性体やエステル体の分析法を確立する。システマテックレビューが公開されたほうれん草のルテインに着目した冷凍ほうれん草、及びミカンの摘果果実と茶葉を揉捻発酵させ、ミカンに含有するヘスペリジンの体内吸収率を向上させたミカン混合発酵茶の機能性表示食品商品の届出を行う。
平成29年度第2次公募
「「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業)」
脳機能改善食品開発コンソーシアム 平成29年~32年
「脳機能改善作用を有する機能性食品開発」
【参画機関】
代表機関:農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門
参画機関数:11機関
【研究概要】
認知機能改善効果が示唆されたケルセチン高含有タマネギについて、成分含量のばらつきを測定・把握して規格設定手法を確立する。簡易分析法を改良して定量法とする。また介入試験によりその効果を実証する。また複数の食品素材について、新たに開発したウェアラブルデバイスを用いた脳波測定と、ヒューマンカロリメーターを用いたエネルギー代謝測定により、信頼性の高い睡眠評価を行い、睡眠改善効果を解明する。これらの結果から脳機能改善効果を有する農作物・食品の機能性表示を可能にし、高機能農作物・食品を事業化する。

インタビュー

プロデューサー:渋谷 健「食と暮らしの改善に向け、自律的なオープンイノベーションを実践」

オープンイノベーションの実践では、研究開発の内容やビジネスモデルだけでなく、オープンイノベーションの場そのものの在り方や運営における工夫も重要だ。国民の「真の健康」の実現という社会課題解決に取り組むべく、戦略的な組織運営を行うプラットフォームが積極的な活動を展開している。

合意を得やすいテーマで幅広い参画を促進

「健康長寿社会の実現に向けたセルフ・フードプランニング」研究開発プラットフォーム(以下、「プラットフォーム」)は、2016年、現農業・食品産業技術総合研究機構 食農ビジネス推進センター長の山本(前田)万里氏と、株式会社島津製作所マネージャーの堅田一哉氏による発案から始まった。そこに、事業プロデュース・ファシリテーションのエキスパートとして、フィールド・フロー株式会社代表取締役の渋谷健氏が加わった。
プラットフォームの目的は、高齢化社会において深刻化する健康上の社会問題を解決すべく、オープンイノベーションによる食と暮らしの改善を目指すことにある。「オープンイノベーションの実践のためには、社会課題解決をテーマとすることが必要です」とプロデューサーの渋谷氏は言う。社会課題解決という広く合意を得やすいゴールを掲げることで、より多くの人が参画しやすくなるからだ。
プラットフォームの運営体制は、研究代表、プロデューサー、事業実施責任者、事務局から構成される。研究代表の山本氏はコンソーシアムの研究を評価するほか、メンバー間の研究の連携を検討・提案する役割を担う。一方、プロデューサーの渋谷氏は、研究の事業化についてのサポートや、場としてのプラットフォームの運営を担当。さらに、事業実施責任者として、宮崎県産業振興機構が理事長の緒方哲氏の指揮のもとに経理や事務処理を行い、事務局の堅田氏がメンバー間のコミュニケーション調整や会場手配などの細かな対応を行うという役割分担だ。渋谷氏は「それぞれが得意技を持ち寄って活かせるような運営体制になっています」と話した。

現状と課題解決までのシナリオをサロンで共有

プラットフォームの実践活動のメインは、「セルフ・フードサロン」だ。プラットフォームのメンバーが対話し、つながりを持てる場として機能している。有志メンバーの参加が基本だが、メンバーから紹介があれば、プラットフォーム外からの参加も可能だ。東京都内だけでなく、函館や長野、高知、宮崎などの地方でも積極的に実施している。サロンの構成としては、参加者数名がプレゼンテーションを行い、その後、交流会を行うという形だ。プレゼンテーションの内容は、山本氏による最新の研究トレンドの解説、各メンバーからの情報提供や取組紹介、さらにコンソーシアムからの報告などだ。
「サロンでまず大切にしているのは、リアリティ(現実)を共有することです」と渋谷氏は強調する。現実を適切に把握することで、現状の課題と今後のビジョンが明確になり、課題解決に向けたシナリオを描けるようになる。「そのシナリオを、サロンでメンバーが感覚的に共有することで、研究開発やその先の事業化に向けたプランがまとまりやすく、前進しやすくなります」と、渋谷氏は語った。

サロンではメンバー内で幅広く議論が展開される一方、派生したコンソーシアム活動はクローズドな性格を持つ。現在7つの研究コンソーシアムがあり、各コンソーシアムの細かな研究開発活動には、プロデューサーや研究代表は原則タッチしていない。「コンソーシアムはいずれも、事前に十分議論して策定した上で設立されたもので、それぞれ明確な研究目標や研究戦略、そしてその先の事業戦略を持って研究活動をしています。具体的でシビアな成果が求められるなか、プロデューサーなどが外から介入すると、混乱を招いてしまうでしょう」と、渋谷氏は理由を述べる。コンソーシアムに対するプロデューサーのかかわり方としては、設立前後のサポート/フォローや大まかな進捗状況の把握、抽象度の高いビジネスモデル/ロードマップの共有までと、意図的にとどめている形だ。「各コンソーシアムは自律的に活動し、最終的にはその先に新しい組織体を立ち上げて、事業として成長展開してほしいと考えています」と渋谷氏は語った。

メンバーの自律性と信頼関係が利他的な創発を実現

プラットフォームの運営で最も大切にしているのは、メンバー間の信頼関係だ。そのため、メンバー加入は紹介制を基本としている。「所属する組織の経歴や実績、組織内での肩書きではなく、『人』として信頼関係を築けるかどうかを重視しています」と、渋谷氏は強調する。その結果、メンバーの誰もが対等に、人間的な付き合いができるプラットフォームが成り立っている。渋谷氏は、「メンバー間でアイデアを共有しやすく、さらにそこからのアクションも起こしやすい場になっています」と語った。
信頼関係を構築できているからこそ、プラットフォームのフレキシブルな運営も可能だ。例えば、会議を最小限にとどめたり、承認プロセスにおける形式的な稟議を省略したり、運用ルールを柔軟に修正したりといった工夫をしている。渋谷氏は、「組織として社会課題の解決を目指すとき、硬直的な在り方ではいずれ限界がきます。メンバーが自律的・能動的に行動でき、信頼関係の中で強みを発揮して、利他的な創発を実現できるプラットフォームにすることが重要です」と主張した。
複雑な社会課題の解決に向けてオープンイノベーションが必須となる中、事業・組織・人財の同時変容が求められている。最後に渋谷氏は「オープンイノベーションはオーケストラ、プロデューサーは演奏をコントロールする指揮者(コンダクター)です。演奏者=メンバーがおのおのの多様性を尊重し、信頼し合って、ハーモニーとして社会に価値を提供できるようなコンダクターシップを、今後も発揮していきます」と強く語った。